花は2つしか知らない そう言っていた父と一緒に梅を見て回った いきもののはなし
3年前の今頃 父はまだこの世にいた
— にじかた ゆきゅ (@myaumatumo) 2024年3月7日
深夜1時ごろ妻と息子に手足をマッサージされながら眠るように旅立ったという
その顔は微笑んでいたと
数十年前に私に話してくれた死生観が変わっていなかったなら
父は「自分の理想通りの別れ方」をした
だから
寝たきりでも生きてて欲しかったと思うのはエゴなのだ pic.twitter.com/Xivsx4XVy7
先日
とある件で神奈川に行った(もちろん自転車で
2月の中旬 梅の季節
通り道には生産緑地地区もあり
小さな梅園気分も味わえた
梅には父との思い出がある
いつどんな状況だったかは覚えていないが
父は私にこう言った
俺は
花は桜とチューリップしか知らないからなあ
バラも知ってるでしょう?
そう問うと父は
そうだな
まあそのくらいしか知らない
少し笑って答えた
(3つしか知らないなんて訳ないよな
たんぽぽとか知ってるはずだよな?)
私はあの時
心の中でそんなことを突っ込んでいた
それから何年か経ち
私が大学生の頃
花の会話同様
いつどんな状況でそうなったかは覚えていないが
冬のある日曜日
父と散歩に出かけた
話の内容は細かく覚えていないから
何かの相談だとか深刻な話をするためではなく
授業や実習はどうか
教授とは話をしているか
前に教えたとんかつ屋さんにはあれから行ったか
そんな他愛もない内容だったと思う
目的地があっての散歩ではないから
あちこちぶらぶら歩き回った
沈丁花にはまだ早い季節
この季節に咲く花は梅くらいだから
住宅の庭
公園
お寺
農地
各所の梅の木を歩道から眺めてただ歩いた
花梅 実梅
野梅 緋梅 豊後
一重 八重
本紅 移り白 移り紅 口紅 源平咲き
不整形 枝垂れ
梅には複数の分け方があるが
どれにも個別の趣があり
私はそのなかでいっとう
薄緋で一重の枝垂れに心をひかれる
散歩した道に枝垂れ梅はなかったが
観賞用に見栄えよく
収穫用に効率よく
目的があって剪定された梅の他に
只管
真上、真上に青い枝を伸ばす梅の木があった
それは
寒さの中
一心に太陽に手を伸ばすかのような
たくましくも美しい姿であった
柵越しに
ブロック塀越しに
網フェンス越しに眺めるそれらの梅の中に
枝は広がらず華奢な佇まいの
白に鮮紅の絵の具をほんの一滴落としたような
儚げな色合いの梅を見た
私
こういう薄いピンク色の梅の方が
紅とか白とかより好きなんだ
ふうん
別にそこから話が広がることもなく
単に好みを伝えただけで終わった会話なのに
父に薄緋の梅が好きだと伝えたことを
とてもよく覚えている
大好きな枝垂れ梅ではなく
真っすぐな樹形の梅に珍しく興味を持ったのも
記憶に残る理由だったのだろうか
2024年3月8日
深夜1時
東京は雨
これから未明に霙になるという
先月観た梅の花も
もうずいぶんと散ってしまっているだろうが
この霙で仕舞になるだろう
雪に耐えて麗し
というが
先月の大雪は湿気を多く含み
柄折れの不幸に見舞われた梅も多かった
2024/02 生田緑地梅園にて
人々の懸命な手当てを受けて回復しようとする梅に
今日の霙は辛かろう
父と梅の会話や
生命力あふれる若き枝を思い出した日だったから
よりいっそう
今日の霙予報を辛く感じる
(お父さん?
バラも知ってたでしょ?
だから梅だって
思い浮かばなかっただけで知ってたでしょ?
冬しか咲かないから花の存在は薄いけどさ?
お父さん?)